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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)4918号 判決

原告 A野太郎

原告訴訟代理人弁護士 吉田之計

同 中井洋恵

被告 カネツ商事株式会社

被告代表者代表取締役 清水正紀

被告訴訟代理人弁護士 平井利明

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一六九二万九五二〇円及びこれに対する平成四年七月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、先物取引受託業者である被告との間における先物取引につき、被告の違法行為により損害を被ったとして、債務不履行ないし不法行為による損害賠償請求権に基づき右損害額の賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

(一)  原告は歯科診療所を営む歯科医師であり、被告は顧客から委託を受けて商品先物売買取引等を行うことを業とする株式会社である。

(二)  原告は、平成二年二月二七日から平成四年七月三日までの間、被告との商品先物取引を行なった。

二  争点

被告による違法な先物取引が行われたため、原告に対して取引による損害を賠償すべきであるとする原告の主張は、以下のとおりである。

(一)  断定的判断の提供

被告は、「儲かります」「損はさせない」「大丈夫」と断定的判断を提供し、儲かることを繰り返し強調し、原告をして強引に頻回な先物取引を勧誘した。

(二)  一任勘定による不合理な取引

本件取引は、取引の種類、枚数、時期、価格を全て被告が選択するという一任勘定のもとに行われた。

(三)  下落玉・因果玉の放置

別紙四のとおり、被告が勧めた白金二〇枚の買い建てが下落して日々損が増加したが、被告は何ら決済の忠告をするなど手を打つことなく、決済か現物を引き取るかの選択を迫られる限月まで一年もの間放置し、九七二万二二五七円もの損害を生ぜしめ、また、ゴム・金・銀・小豆についても、顧客が建てた玉に損が生じているのであれば、しかるべき時期に決済を勧める義務があるにもかかわらず、被告は、意図的に損が生じた玉を放置した(因果玉の放置)。

被告は、損が生じた玉を意図的に放置し、他方で、短期売買で微々たる利益を出したり、利益が出ている取引をあえて決済し売り直し、買い直しするなどして、あたかも儲かっているように顧客に錯覚させたり、両建てを行って、損が凍結し好転するかのように顧客に思い込ませたりなどして、顧客の目を損が生じた玉からそらす手法を取った。

本件では、損が生じた玉が長期間放置されている一方で、短期売買、売り直し、買い直し、両建が繰り返されている点からすると、被告が意図的に損を放置したことは明らかである。放置された玉による損害額は一三九八万五四二二円である。

(四)  短期売買

別紙三のとおり、本件では、玉を建ててから決済までが五日以内の短期の売買が一七回も行われており、これが全体取引の二五・三パーセントにも及んでいる。

正当な投資判断をしたのであれば、短期に決済しなければならない事態の急変場面がそうそう生ずるものではない。限月までに十分な時間があるにもかかわらず、短期に決済をするのは、建玉当初に何ら投資判断をせずに建玉をしている証拠である。

(五)  買い建てと売り建ての両建

別紙一の一のように、わずかな期間、多いときには同日中に同じ種類の取引につき、売り建てや買い建てを繰り返している。価格上昇との投資判断をしたなら買い建てをし、下降との投資判断をしたなら売り建てをするはずである。しかるに、わずかな期間に売り建てや買い建てを繰り返しているのは、合理的な投資判断に基づく勧誘を行っているとは考えられず、被告の手数料稼ぎのために手当たり次第に取引を繰り返していたものである。

売りと買いの同時進行という不合理な取引が、本件では一三回行われており、その割合は全体取引の一九・四パーセントにも及んでいる。

また、先物業者としては、一度決済して損が顕在化すれば顧客が取引から離れるおそれがあり、両建にすれば損が顕在化しないので、顧客を縛り付けておけるほか、反対玉を行うことなどで、さらに手数料が稼げるので、業者は顧客のリスクを考えず、安易な両建てを行う傾向があり、このような無意味な取引が、別紙一―二のとおり頻繁に繰り返されていた。

(六)  買い直し、売り直し

決済して仕切ったのであれば、買い建ての場合、今後価格の上昇を望めない、売り建ての場合、今後価格の下降が望めないとの投資判断を行ったからに他ならない。ところが、本件では、別紙二のとおり、決済直後に同じ種類の商品につき買い直し、売り直しをしており、合理的投資判断を行わず、手数料稼ぎのために手当たり次第取引を繰り返しており、この回数は一五回に及んでおり、全体取引の二二・三パーセントにも達する。

ゴムの不要な買い直しは六〇枚(六六二〇円)、小豆の不要な買い直し、売り直し一〇〇枚(六〇〇〇円)、綿糸の不要な売り直し二〇枚(三八二〇円)で合計一〇七万四一四〇円の手数料が損害として発生している。

(七)  手数料割合

本件取引における手数料の損害に対する割合は約四〇パーセントにも及んでおり、手数料稼ぎの取引の典型である。

(八)  決済拒否

平成四年六月一一日の綿糸五〇枚(同年七月三日仕切)については、原告が多額の損害を憂えて決済を求めたが、被告がこれを拒否したため、一八八万〇五四〇円の損害が発生した。

(九)  損害額

平成二年二月二七日から平成四年七月三日までの間に、被告との本件取引により一五三九万〇四七三円の損害を被った。

損害額としての弁護士費用は右損害額の一割に相当する一五三万九〇四七円とすべきである。

なお、被告の主張では、右期間の取引による原告の損失額は一三九一万二九四九円である。

(一〇)  債務不履行ないし不法行為責任

業者が顧客に対して一般的な善管注意義務・忠実義務を負っているにもかかわらず、被告は、前記(一)ないし(八)のような、単なる手数料稼ぎのために顧客の利益を顧みない無意味な頻回取引を繰り返し、右善管注意義務ないし忠実義務に違反する違法な取引を行い、原告に多額の損害を与えたものであり、被告は原告に対して、債務不履行ないし不法行為による損害賠償義務を負っている。

第三争点に対する判断

以下の認定に供した証拠は、個別に掲げたもののほか、《証拠省略》である。

一  被告による違法な取引の有無について

(一)  断定的判断の提供について

原告の経歴は、昭和二九年三月に国立B山大学工学部を卒業後、昭和三〇年三月一四日に当時の株式会社B山相互銀行(現B山銀行)に入行し、昭和三九年三月以降主任、昭和四四年以降課長補佐を歴任し、一七年間同行に勤務した後、C川歯科大学に入学し、同校卒業後に歯科医師免許を取得し、歯科医を開業している。

原告は、平成二年二月二七日に被告との先物取引を開始する以前から、また、この取引と平行して次のような先物取引を行っている。

丸宏大華証券株式会社からの調査嘱託に対する回答によれば、原告は、遅くとも昭和六一年頃から、同社と証券取引を行なっており、同じころから、投資信託等も行なっている。これは、「ニューバランス」、「ストックボンド」、「インデックスオープン」等は何れもリスクリターン分類(以下、RR)三~四に属するものであり、RRは一から五の分類に分けられるところ、バランス型は、約款上株式組入限度七〇%未満のファンドでありRR三に属する(RR三は、「値上がり益追求・利回り向上を目標とした、株式と公社債等の組み合わせにより運用するファンドですが、値上がり益を追求するため値下がりのリスクがあります」と統一的に説明されている)。また、インデックス型は、約款上株式への投資に制限を設けず日経二二五等に採用されている銘柄に投資しこれらの指数に連動した投資成果を目指すものでRR四に属する(RR四は「値上がり益の追求を目標として、株式を中心に運用するファンドですが、一方で、大きな値下がりのリスクがあります」と統一的に説明されている)ものであり、かなりリスクの多い分類に属するものである。

また、原告は、商品取引業者太陽ゼネラルからの調査嘱託に対する回答によれば、同社との取引に際して、東北電力二、四〇〇株、富士通一、〇〇〇株、九州電力八〇〇株、日本電信電話二株、北海道電力三〇〇株の株券を(代用)証券として証拠金の代わりに預託していた。商品取引に際しては、株券は時価よりかなり低めに評価してその担保価値が評価されるのが通常であり(一部上場銘柄は時価の七〇%で評価)、原告が太陽ゼネラルに預託していた有価証券の評価額は最高時には一二〇〇万円を超えている(委託者別委託証拠金現在高帳)。

そして、山一証券株式会社の調査嘱託に対する回答によれば、原告の年収は二〇〇〇~五〇〇〇万円、金融資産は二〇〇〇~五〇〇〇万円にランクされるものであった。

原告は、被告以外の会社と次のような先物取引を行っていた。

米常商事株式会社の嘱託に対する回答によれば、原告は、遅くとも昭和六三年四月二一日から平成元年四月二七日までの約一年間、同社と別紙Aの商品先物取引を行なっていた。原告の供述によれば、「儲かるでしょう」と営業マンに勧められて開始したこの取引により約八〇万円の損失を被った。

太陽ゼネラル株式会社の調査嘱託に対する回答によれば、原告は、平成元年三月一日より平成二年一月一二日までの間、別紙Bのとおり、同社との商品先物取引を行い、合計一五三万三八〇五円の損失を被った。

フジチュー株式会社の調査嘱託に対する回答によれば、原告は、太陽ゼネラルとの取引が終了した平成二年一月一二日の直後である一月一七日からフジチューと取引を開始し、別紙Cのとおり、その後五年半にわたり同社と取引を継続して、結果的に一九五四万九一七三円の損失を被った。

このように、原告は、前記米常商事、太陽ゼネラル、フジチューとの各具体的な商品先物取引を通じて、相場取引の一種である商品先物取引のハイリスク・ハイリターン性質を経験していた。

そこで、原告が被告との先物取引を開始した経緯につき以下検討する。

原告は、投資家向けの雑誌「日経マネー」等にはさみ込まれていた原告への資料請求の葉書を利用して、被告宛に、平成二年二月頃、資料請求をしたため、被告の担当者である大阪支店の次長中塩屋龍也及び山﨑任泰課長代理は、同月二一日(水曜日)、請求のあった資料を届けに原告の自宅併設の診療所に赴いた。この日は、主に診療所の待合室にて原告から求めのあった資料(罫線[商品の値動きを示すグラフ])等や上場商品の特性(値動きの要因等)が記載されたパンフレット等を手渡して、商品の市況等の説明を行ない、この際、原告は、被告以外の他の商品取引業者と取引をしていること、その会社の取引に関する対応に不満があり、太陽ゼネラルとは現在訴訟中であるか訴訟準備中のトラブルがある等のことを述べていた。

この訪問後、中塩屋は一、二回、原告に電話をして、JCOMニュース(時事通信社が行なっている相場に関する報道)や業界新聞の内容を説明した上で、罫線上の値動きの状況等も考えて、相場に関する意見を原告に伝えた(原告調書二三頁「電話くらいあったように思いますね。」)。

中塩屋及び山﨑が、二月二七日(火曜日)、原告の診療所を再度訪問し取引に関する説明を行なったところ、当初の待合室での応対後、歯科医院の奥にある別室での応対となり、この間、患者の来院はなく、約二時間程の話合いとなり、中塩屋は、商品取引に関するガイド等を示す等しながら、証拠金を中心とした商品取引の仕組み及び証拠金との絡みで商品取引の有する危険性についても説明し、商品の値動きの状況もチャート(罫線)やレポート等を示しながら説明した。

この際、中塩屋は、当時、ヨーロッパで排気ガスの規制が強化される旨の報道があったため、自動車の触媒に利用されている白金の需要が大幅に増加するとの相場動向の見通しについての意見及び「投資日報」か何かの業界紙には二万円まで相場が上昇する可能性がある旨の報道がなされている旨を原告に伝えたところ、原告は、二万円までは行かないであろうとの自己の判断を話したりした。

そして、原告は、被告は他社と違い情報をきっちりと説明してくれる等述べながら被告との取引を希望し、「先物取引の危険性を了知した上で商品取引所の定める受託契約準則の規定に従って原告の判断と責任において売買取引を被告と行なうこと」を承諾した。

原告が受領した「商品先物取引委託のガイド」には、「商品先物取引の危険性について」の告知(見開2丁)、委託者自身の責任の判断による取引である旨の告知(見開3丁)、商品取引の仕組み(一頁)、取引単位・値動きによる差益一覧(七、八頁)、損益計算の具体例(九頁)、契約の手順等(一一頁)、委託証拠金・委託証拠金の計算例(一三頁)、決済の方法(一七頁)、手数料等(一九頁・手数料は各商品取引所が決定する乙三、一八頁)、取引に際しての書類の内容(二五頁)等各種の項目について内容説明されている。

以上のような原告の銀行員としての経歴、先物取引で失敗した経験、被告との先物取引を開始した際の原告の被告担当者に対する対応などからすると、被告の担当者は、原告が、証券取引の経験があるばかりか、被告以外の他社において商品先物取引の経験があり、取引を行なっていた太陽ゼネラルと訴訟中であるか或は訴訟準備中のトラブルがあるとの旨聞かされていたことからすれば、その場で被告担当者があえて断定的判断の提供をして勧誘をしたとは認めることはできず、また、被告の担当者が原告に対して先物取引につき「大丈夫です。損はしませんよ。」「儲かりますよ。」などと断定的に勧誘したから、その勧誘をそのまま信用して先物取引を開始したとする原告の供述はにわかに信用できない。

(二)  一任勘定による不合理な取引について

原告は、被告との取引を開始するに際して、委託証拠金とする株券(代用証券)をその場で直ちに出してきたうえで、白金二〇枚の買注文を出した。

取引に際して株券を代用証券として証拠金とする者は原告に限らないが、通常、株券等は証券会社や銀行の貸金庫等において保管されていることから、株券等の受託は後日となる扱いが大半であるにもかかわらず、原告はその場で自宅に保管中の株券を取り出してきた。この点に関し、原告は、株券は常に手元に置いていたと供述するが、例えば、丸宏大華証券の調査嘱託に対する回答によれば、昭和六二年頃から保護預りとしていたことが認められることからすると、証券を常時手元に置いていたとする原告の供述には疑問がある。

また、被告の担当者山﨑は、原告の診療に差し支えのない午前九時三〇分頃、午後一時頃、午後三時頃に電話連絡等を行なっており、担当者の山﨑が不在の折には、中塩屋が、原告に電話をかけたり又原告からの電話を受けたりしたこともかなりの回数あり、原告の手が離せない場合には、原告の方から被告に対して後で電話がくることもあった。

被告は、チャート(罫線)、業界新聞や例えば商品の需給関係又は商品の特質等が記載されたレポートの類等の送付も行なっており、中塩屋は、原告の求めに応じて電話でその送付した資料に関する説明も行なった。そして、原告は、中塩屋が取引を勧めても、情報の根拠を必ず求め、根拠が曖昧である時には注文に至っていない。

また、原告は、被告の担当者らから、担当者が勧める情報の根拠を尋ね、相場が思惑どおりいかないと、感情的に「担当者を替えろ」と言うようなこともあった。

被告から原告に取引毎に送付されてくる営業報告書や毎月月末頃に送付されてくる残高照合表に各建玉毎の損益状況が明記されていること、被告の担当者が追証拠金の請求に来ることがあった。また、売買報告書には各建玉の値洗いの状態(未確定損益の状態)や取引のあった分の『手数料』等の明細等が明記されていた。

このように、原告は、被告に対して取引に関する資料を要求しており、また、被告から個々の取引について勧誘等の電話等があったことは認める供述をしているところ、原告が取引の種類、枚数、時期、価格等をすべて被告に対して一任していたとすれば、被告の担当者が建玉に関して原告に電話をしたり、資料を送付したりする必要はないはずであり、前記のとおり、原告の先物取引の経験や、個々の取引に関して被告担当者に対して情報の根拠を尋ねるなどの会話の内容などからすれば、原告の取引が一任勘定によるものであるとは認められない。

(三)  下落玉・因果玉の放置について

原告が平成二年二月二七日に建てた白金は、その後値下がり傾向を示していたが、六月頃までは大きな値下がりはなく、七月以降値下がり傾向が大きくなってきた。

中塩屋は、自ら、相場動向、建玉の損得の現状報告等を原告に報告するとともに、山﨑に対して、証拠金の準備や建玉の手仕舞いに関する指示も行ない、白金の値下がりに関して、原告と白金の建玉の対処について話を行ない、原告に対して、追証を継続して入れるか、手仕舞いするか、両建するかの判断を求めた。これに対して、原告は、手仕舞いすれば損金が確定し株券を売却しなければならないが、株券の処分は嫌であると主張して手仕舞いを行なわなかった結果、建玉が維持された。

この点につき、原告は株を売りたくないと述べたことは認める供述をするが、株の売却は建玉を損失勘定にて仕切って始めて発生する問題であるので、被告から原告に対して建玉の手仕舞いについて打診があったことが認められる。

そして、白金の建玉二〇枚の納会(平成三年二月)が近接したことから、被告において原告に対して手仕舞いするか、現物の引取(ただし、これは倉荷証券等の授受による。)による決済を求めたところ、原告は手仕舞いの指示を出し、その結果、売買差金から手数料(消費税を含む)、取引所税を控除後の差引損失九、七二二、二五七円が発生した。

以上によれば、白金の建玉の値下がりについて被告がこれを放置していたとは認められない。

その他、原告が因果玉の放置として主張する別紙四の取引について検討する。

原告が平成三年一月七日買建玉したゴム二〇枚は最終的に平成三年八月二六日に処分されている建玉であるが、原告は、因果玉の放置であると主張する。

しかし、当該建玉は値洗差金(処分の際の売買差金にあたる)がしばらく損勘定となっており、値洗い損の状況は、平成三年一月二八日▲一七九万円、同年四月一六日▲一〇九万円となり、その後損勘定は次第に回復し、建玉から五か月が経過した平成三年六月二〇日頃には、損勘定を脱して利益勘定となった。

被告担当者らは全部の仕切を勧めたが、原告は一部のみ仕切を行ない6万円余の差引利益を得た(なお残りの建玉は約三万円の値洗い利益を計上していた。)。

原告は、残りの建玉の処分は、そのときには行なわなかったが、その後値の状況は再度悪化したため残建玉は損失にて処分となった。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年一月七日 同年六月一八日 六一、六九一円

同年八月二六日 (-)四一三、三〇五円

差引損益は売買差金から手数料(消費税を含む)・取引所税を控除した後の金額である。

同様に、原告が平成三年五月二九日に建玉した小豆二〇枚については、値洗いの状態が平成三年九月九日▲二七七万円余、一〇月二日▲二〇三万円余とかなり悪化した状況にあったが、値の回復が見込めたことから、原告は被告との相談の結果、様子を見たところ、その後損勘定は次第に回復し、同年一一月二五日と同月二六日に分けて原告により処分され、その結果、差引損金合計が七七万一〇三七円と損失が改善された。

原告が平成三年五月三〇日買建玉した小豆一〇枚も、値洗いが平成三年九月九日▲二六四万円余、九月二五日▲二二〇万円余とかなり悪化した状況にあったが、原告は被告との相談の結果、値の回復が見込んで様子をうかがっていたところ、損勘定は次第に回復し、差引損金合計一二九万二一一円にて原告は処分し、損失が改善された。

平成三年八月二六日に売建玉した小豆三〇枚の処分の経緯は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年八月二六日 同年九月九日 二〇一、〇二〇円

同年九月一〇日 二七七、〇二一円

同年九月二五日 三三七、〇二一円

同年一〇月二日 一九五、九九〇円

同年一一月八日 一八、九五八円

平成四年一月二四日 (-)一、〇二三、一一二円

上記のとおり元々利益勘定であった建玉を、原告は少しずつ処分していたところ、最後の残五枚の建玉が相場動向により損勘定の処分となった。

ゴム一〇枚買建玉(東京工業品取引所)の値洗差金は、長期間損勘定で、値洗損の状況は平成三年九月九日▲二七七万円余、一〇月二日▲二〇三万円余であった。しかし、原告は被告との相談のもと、時間をかけて相場の回復を待ったところ次のとおり差引利益による処分となった。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年一月四日 同年八月二六日 六一、六九一円

ゴム一〇枚買建玉(東京工業品取引所)の値洗差金は、当初悪く平成三年四月一日▲六八万円であったが、その相場の回復時に一部を利益勘定で処分、残部について機会をうかがっていたが、再び相場の状況は悪化し六月一八日▲五三万円余となる状況であった。原告は被告との相談のもと、再度相場の状況を見守ったところ、その後相場が回復し、次の差引利益による処分となった。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年一月四日 同年四月一六日 二六、七〇一円

九月六日 一六、七〇一円

ゴム一〇枚買建玉(神戸ゴム取引所)の値洗差金は、一時期悪く平成三年四月一八日▲二八万円であったが、原告は被告と相談して、相場の回復を待ち次の差引利益による処分となった。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年三月一三日 同年六月二四日 一二六、六九四円

ゴム一〇枚買建玉(神戸ゴム取引所)の値洗差金は、損勘定の期間が長く平成三年四月一八日▲三七万円余、五月二九日▲四五万円という状況であったが、相場の回復を待ち次の差引利益による処分となった。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年三月二九日 同年六月六日 一一六、六九四円

以上のとおり、原告が因果玉の放置と主張する建玉は、いずれも、その時々の具体的な相場判断に基づいた対応がされていたことが認められ、結果的にそれが損勘定になったとしても、そのことをもって、被告による因果玉の放置と評価することはできない。

(四)  短期売買について

先物取引の商品は、種類によっては値の動きの頻繁なものがあり、中でも小豆やゴム等は比較的値動きの頻繁な銘柄である。

そこで、具体的に値動きの変動を検討する。

なお、「日計り」は当日中の建玉・仕切であり、「一日」は建玉の翌日仕切、「二日」は建玉の翌々日仕切の意味である。

① 日計り

一  小豆・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月八日前場一節 同日後場三節 一四〇、〇九八円

二  小豆・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月二九日前場一節 同日前場三節 (-)一三九、九二九円

② 一日

一  ゴム・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年一月一七日 同年一月一八日前場一節 (-)二五八、三〇四円

平成三年一月一七日 一月一八日後場一節 (-)四一八、三〇二円

二  小豆・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月一五日 五月一六日 八四、〇九五円

三  小豆・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月二八日 五月二九日 一八〇、〇九三円

四  小豆・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成四年四月二七日 四月二八日 八〇、二九六円

③ 二日

一  ゴム・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成二年一二月一九日 一二月二一日 三六三、三八九円

二  ゴム・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成二年一二月二六日 一二月二八日 一二六、六九〇円

三  小豆・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年一〇月二一日 一〇月二三日 一〇二、〇五一円

④ 三日

一  ゴム・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成二年九月一八日 九月二一日 一〇五、五七四円

二  ゴム・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年二月二六日 三月一日 三六、七〇一円

三  小豆・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月一七日 五月二〇日 一五六、〇九二円

⑤ 五日

一  小豆・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年四月二六日 同年五月一日 六〇、一〇三円

二  綿糸二〇単・買建玉

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成四年六月一二日 六月一七日 (-)一、二六七、〇五一円

以上のとおり、短期に大きく値動きすることがあり、場合によっては一日はもちろん場や節の違いでも相当大きな上下動となることがある。このような商品としての性質から、値動きが比較的短期に動く商品は、短期的な利益獲得(いわゆる利鞘獲得)を目指して取引されることも多く、原告は、正当な投資判断をしたのであれば短期に決済しなければならない事態の急変場面がそうそう生じるものではないと主張するが、これは原告が商品相場の性質及び具体的な値動きの状況等の現実これは取引の実情と異なった主張であると認められる。

また、被告が、原告に対して、場当たり的なアドバイスを行ない、それを主要な判断材料として原告が取引の指示を行なっていたとすれば、上記のほとんどの取引が損勘定で終局したと考えられるが、実際はそのような結果となっていないことからすると、短期売買であるから違法との原告の主張は理由がない。

(五) 買い建てと売り建ての両建について

商品相場は、需要、為替等の要因に基づいて刻々と上下動するものであり、商品に関する情報及び値動きの動向等から判断して、そのときの判断として個々的に売の判断、買の判断を行なうものであり、その時々の相場に関する材料や相場動向により、同日のうちに買から売へ、或は反対に、売から買への判断へと転換することがある。商品取引における値動きは、細かい短期的な上下動を繰り返しながら中長期的には大きな放物線を描いて上下動する性格のものであるが(これは株などでも変わらないが商品先物取引の方がより動きが明確といえる)、このことから明らかなとおり、相場判断の材料は、中長期的なものと短期的なものがあることが自明といえる。したがって、例えば、中期的或は長期的な材料に基づく判断としては値が上がるとの方向性の判断ができ、それに基づき買建玉を行なっているとしても、その間に短期的な要因にて値が反対方向へ動くことが期待出来る場合には、一つの方法として損失の一時的に固定させるため或は短期の利食いを行なうために売建玉を行なうこともあり、この場合は必然的に両建てとなる。

全く同一の商品[商品の種類、取引所及び限月が全く同一」について全く同一日の同一場・節に売と買いを同時に建てるようなことは全く無益であるが、そのような両建てでない場合には、並行して売と買の建玉がなされていること自体だけをもって、当然に合理的な推奨がなされていないとすることはできない。

一一月二八日 一一月二九日 一一月三〇日 一二月三日 一二月四日 一二月五日 一二月六日

高値 一一七、三 一一八、三 一二〇、三 一一九、〇 一一九、五 一一六、八 一一七、九

安値 一一五、九 一一七、六 一一八、七 一一七、七 一一七、〇 一一六、〇 一一五、九

一二月七日 一二月一〇日 一二月一一日 一二月一二日 一二月一三日 一二月一四日 一二月一七日

高値 一一七、〇 一一五、七 一一五、五 一一五、八 一一五、五 一一五、八 一一六、九

安値 一一六、二 一一四、五 一一四、七 一一五、三 一一五、〇 一一五、三 一一六、五

一二月一八日 一二月一九日 一二月二〇日 一二月二一日 一二月二五日 一二月二六日

高値 一一七、〇 一一九、〇 一一九、七 一二二、九 一二二、五 一二二、〇

安値 一一六、四 一一六、四 一一八、九 一二〇、〇 一二一、九 一二〇、八

以上のように、両建ては、必ずしも不要のものとはいえず、各商品取引所においても両建が禁じられているわけではないので、以下、具体的な検討をする。

一 ゴムについて

一  原告が、平成二年一一月三〇日に買建玉した建玉の処分及び損益の状況は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成二年一一月三〇日 一二月二一日 六一、六九三円

同年一二月五日 一二月一一日 三三、三九八円

なお、神戸ゴム取引所平成三年六月限ゴムの平成二年一一月一九日から一二月二八日の高値、安値の動きは、次のとおりである(単位は円、以下同様)。

上記の相場の流れによれば、大局的には値上がり方向であったために一一月三〇日に買建玉が行なわれているものの、短期的に一時値下がりが見込めたことから一二月五日に売建玉を行なったと評価し得る。

二  原告が、平成三年一月四日、七日、一七日に買建玉をし(ただし、何れも東京工業品取引所のもの、以下、建玉の次の取引所の名前の記載は同様)、一月二三日売建玉した(神戸ゴム取引所)取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年一月四日 同年八月二六日 一七三、三七九円

同年一月七日 同年六月一八日 六一、六九一円

同年八月二八日 (-)四一三、三〇五円

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

同年一月一七日 同年一月一八日 (-)二五八、三〇四円

同年一月一八日 (-)四一八、三〇二円

同年一月二三日 同年二月二〇日 一二一、七〇二円

同年二月二〇日 一二六、七〇二円

東京工業品取引所の平成三年八月限ゴムの平成二年一二月二六日から平成三年一月二三日迄の高値、安値の動きは次のとおりである。

一二月二六日 一二月二七日 一二月二八日 一月四日 一月七日 一月八日 一月九日

高値 一二四、三 一二五、七 一二六、三 一二三、七 一二三、九 一二四、〇 一二一、九

安値 一二一、九 一二三、七 一二六、〇 一二三、〇 一二二、八 一二一、一 一二〇、八

一月一〇日 一月一一日 一月一四日 一月一六日 一月一七日 一月一八日 一月二一日

高値 一二〇、四 一一六、九 一一六、九 一二〇、〇 一二三、〇 一一八、七 一一五、九

安値 一一五、九 一一五、二 一一五、七 一一九、二 一一七、一 一一五、三 一一五、七

一月二二日 一月二三日 一月二四日 一月二五日 一月二八日 一月二九日 一月三〇日

高値 一一四、〇 一一三、三 一一一、四 一〇九、六 一〇八、一 一〇六、〇 一〇六、五

安値 一一二、六 一一二、六 一一〇、五 一〇八、九 一〇五、〇 一〇四、五 一〇五、四

上記の相場の流れによれば、大局的には値上がりの状況であったために、原告は、平成三年一月四日及び七日に買建玉を行ない、その後一旦値を下げたものの再度上昇傾向にあったため、一月一七日に買い建玉を行ない、急激な値上がり傾向を示したために、一月一七日に建てた建玉は損を拡大させないために、一八日手仕舞いし相場の状況をうかがった。以後も値が下がったことから短期的には値下がり傾向が継続すると考えられ、一月二三日両建てとしたこと、その後値は再び値上がり状況傾向を示したことから両建て分の売建玉を(利益勘定にて)手仕舞いし、当初の大局的方向性であった値上がり傾向が継続したことから、利益勘定処分となった建玉もあることが認められ、これをもって不合理な判断に基づく両建取引であるとはいえない。

三  原告が、平成三年二月二六日に買建玉し、二月二七日に売建玉し(いずれも東京工業品取引所)、二月二八日に買建玉した(神戸ゴム取引所)結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年二月二六日 同年三月一日 三六、七〇一円

同年二月二七日 同年四月一六日 二六、七〇一円

同年九月六日 一六、七〇一円

同年二月二八日 同年三月一二日 一五六、七〇〇円

四  原告が、平成三年三月一二日、一三日に買建玉し、三月一四日に売建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年三月一二日 同年四月一日 四一、六九五円

同年三月一三日 同年六月二四日 一二六、六九四円

同年三月一四日 同年四月一〇日 三六、六九八円

同年三月一四日 同年四月一一日 五一、六九八円

五  原告が、平成三年三月二九日(但し、前場二節)売建玉し、同日(但し、後場三節)買建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年三月二九日前場二節 四月四日 三一、六九五円

同年三月二九日後場三節 六月六日 一一六、六九四円

二 小豆について

一  原告が、平成三年五月九日(但し、後場一節)に買建玉し、同日(但し、後場三節)売建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月九日後場一節 五月二〇日 三六、〇九五円

同年五月九日後場三節 六月六日 五、〇二〇円

六月七日 四五、〇二一円

二  原告が、平成三年五月一六日に買建玉し、五月一七日に売建玉し、同日(但し、後場三節)買建玉し、かつ、五月二一日に売建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月一六日 九月九日 (-)一、三五四、〇六一円

九月九日 (-)一、三三四、〇六一円

同年五月一七日 五月二〇日 一五六、〇九二円

同年五月一七日 五月二九日 一七二、〇九二円

同年五月二一日 六月六日 二五、〇二〇円

六月七日 七三、〇二一円

三  原告が、平成三年五月二八日に売建玉し、五月二九日に買建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月二八日 五月二九日 一八〇、〇九三円

同年五月二九日 五月二九日 (-)一三九、九二九円

一一月二五日 (-)六三一、一〇八円

一一月二六日 (-)五七五、一〇九円

四  原告が、平成三年五月三〇日に買建玉し、五月三一日に売建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月三〇日 一一月八日 (-)七一一、一〇五円

一一月二一日 (-)五七九、一〇六円

同年五月三一日 六月二〇日 六五八、〇四一円

五  原告が、平成三年一一月二七日、二九日に売建玉(東京穀物取引所、)し、一二月五日に買建玉(関西商品取引所)した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年一一月二七日 平成四年四月七日 一〇五、九一六円

同年一一月二九日 同年四月七日 六一、九一七円

同年一二月五日 平成三年一二月一八日 (-)三七、九六八円

平成四年二月一七日 五一、九七一円

以上の検討結果によれば、原告が不合理で手数料稼ぎを目的とした不合理な取引であると主張する事実は認められない。

(六) 買い直し、売り直しについて

値動きがそれまでの動きとは異なり反転しそうな状況のときや相場の先行きが不透明な場合には、両建てを行なったり、一旦建玉の処分を行ない、以後の相場状況により相場が反転するようであれば反対の建玉(例えば、それまで売をしていたとすれば買いを行なう)を行ない(いわゆる途転)、従来の相場同行が継続する見込があれば再度同じ建玉を建てることも(原告が主張する「買い直し・売り直し」に相当)あり得る取引形態である。

例えば、最高値(若しくはそれに近い)と判断される時点で、一旦処分し、その後値が下がった段階で再び値上がり方向が予測される場合に再度買い入れることはごく自然であり、買い建玉を仕切った後に再び買い建玉が建てること自体は合理的な取引である。

そこで、以下、具体的な検討をする。

一 ゴムについて

一  原告が、平成二年一二月二一日に買建玉二〇枚(東京工業品取引所・平成三年六月限月)、買建玉一〇枚(神戸ゴム取引所・平成三年六月限月)を決済し、同月二六日に買建玉二〇枚(東京工業品取引所・平成三年八月限月)を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成二年一一月三〇日 一二月二一日 六一、六九三円

同年一二月一九日 一二月二一日 三六三、三八九円

同年一二月二六日 一二月二八日 一二六、六九〇円

同年一二月二六日 一二月二八日 一五一、六九一円

ところで、神戸ゴム取引所平成三年六月限ゴムの平成二年一二月一九日から一二月二八日の高値、安値の動きは次のとおりである。

一二月一九日 一二月二〇日 一二月二一日 一二月二五日 一二月二六日 一二月二七日 一二月二八日

高値 一一九、〇 一一九、七 一二二、九 一二二、五 一二二、〇 一二三、九 一二四、三

安値 一一六、四 一一八、九 一二二、〇 一二一、九 一二〇、八 一二一、八 一二四、〇

また、東京工業品取引所平成三年八月限ゴムの平成二年一二月二一日から一二月二六日の高値、安値の動きは次のとおりである。

一二月一九日 一二月二〇日 一二月二一日 一二月二五日 一二月二六日 一二月二七日 一二月二八日

高値 なし なし なし 一二五、〇 一二三、四 一二五、七 一二六、三

安値 なし なし なし 一二三、九 一二一、九 一二三、七 一二六、〇

前記取引では、原告が、一旦高値をつけたと判断し処分をしたところ、その後値が一旦下がり、その後再度の値の上昇が望めたことから、一二月二六日の建玉を行なったことが認められる。

二  原告が平成二年一二月二八日に買建玉二〇枚を決済し、平成三年一月四日に買建玉二〇枚を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成二年一二月二六日 同年一二月二八日 一二六、六九〇円

同年一二月二六日 同年一二月二八日 一五一、六九一円

平成三年一月四日 平成三年八月二六日 一七三、三七九円

なお東京工業品取引所平成三年八月限ゴムの平成二年一二月二五日から平成三年一月八日の高値、安値の動きは次のとおりである。

一二月二五日 一二月二六日 一二月二七日 一二月二八日 一月四日 一月七日 一月八日

高値 一二五、〇 一二三、四 一二五、七 一二六、三 一二三、七 一二三、九 一二四、〇

安値 一二三、九 一二一、九 一二三、七 一二六、〇 一二三、〇 一二二、八 一二一、一

前記取引では、一二月二八日に一旦高値をつけた段階で手仕舞いして原告は利益を確保し、値が下がった一月四日に再度の値上がりが望めたことから新たに買い建玉を行ない、再度の利益確保を目指していたことが認められる。

三  原告が、平成三年三月一二日に買建玉一〇枚を決済し(平成三年八月限月)、同日買建玉一〇枚(平成三年一〇月限月)、同月一三日に買建玉一〇枚(平成三年一〇月限月分)の建玉を行なった取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年二月二八日 三月一二日 一五六、七〇〇円

同年三月一二日 四月一日 四一、六九五円

同年三月一三日 六月二四日 一二六、六九四円

四  原告が、平成三年四月一〇日に売建玉一〇枚、同月一一日に売建玉一〇枚(ただし、いずれも神戸ゴム取引所)、同月一六日に売建玉一〇枚(ただし、東京工業品取引所、)を決済し、同月一八日に売建玉一〇枚(ただし、神戸ゴム取引所)を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年三月一四日 四月一〇日 三六、六九八円

四月一一日 五一、六九八円

同年二月二七日 四月一六日 二六、七〇一円

同年四月一八日 六月二〇日 (-)六四八、三〇五円

二 小豆について

一  原告が、平成三年四月二五日に買建玉一〇枚(ただし、平成三年九月限月)を決済し、同月二六日に買建玉一〇枚(ただし、平成三年一〇月限月)を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年四月五日 四月二五日 一二四、一一〇円

同年四月二六日 五月一日 六〇、一〇三円

二  原告が、平成三年五月一日に買建玉一〇枚を決済し、同月八日に買建玉一〇枚を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年四月二六日 同年五月一日 六〇、一〇三円

同年五月八日前場一節 同日後場三節 一四〇、〇九八円

三  原告が、平成三年五月八日に買建玉一〇枚を決済し、同月九日に買建玉一〇枚を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月八日前場一節 同日後場三節 一四〇、〇九八円

同年五月九日 同年五月二〇日 三六、〇九五円

四  原告が、平成三年五月一六日に買建玉一〇枚を決済し、同月一七日に買建玉一〇枚を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月一五日 五月一六日 八四、〇九五円

同年五月一七日 五月二九日 一七二、〇九二円

五  原告が、平成三年五月二九日に買建玉一〇枚(ただし、平成三年一〇月限月)を決済し、同日買建玉二〇枚(ただし、平成三年一一月限月)の建玉を行なった取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月一七日 同年五月二九日 一七二、〇九二円

同年五月二九日前場一節 同日前場三節 (-)一三九、九二九円

同年一一月二五日 (-)六三一、一〇八円

同年一一月二六日 (-)五七五、一〇九円

六  原告が、平成三年五月二九日に買建玉一〇枚を決済し、同月三〇日に買建玉一〇枚を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

同年五月二九日前場一節 同日前場三節 (-)一三九、九二九円

同年五月三〇日 同年一一月八日 (-)七一一、一〇五円

同年一一月二一日 (-)五七九、一〇六円

七  原告が、平成三年一〇月二三日に買建玉五枚(ただし、東京穀物取引所)を決済し、同月二四日に買建玉五枚(ただし、関西商品取引所)を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年一〇月二一日 一〇月二三日 一〇二、〇五一円

同年一〇月二四日 一一月八日 一一三、〇二〇円

八  原告が、平成三年五月二〇日に売建玉一〇枚を決済し、同月二一日に売建玉一〇枚を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月一七日 五月二〇日 一五六、〇九二円

同年五月二一日 六月六日 二五、〇二〇円

同年五月二一日 六月七日 七三、〇二一円

九  原告が、平成三年五月二九日に売建玉一〇枚(ただし、平成三年一〇月限月)を決済し、同月三一日に売建玉一〇枚(ただし、平成三年一一月限月)を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月二八日 五月二九日 一八〇、〇九三円

同年五月三一日 六月二〇日 六五八、〇四一円

一〇  原告が、平成三年六月六日(ただし、前場三節五枚及び後場一節五枚七)に売建玉一〇枚(ただし、平成三年一〇月限月分)を決済し、同日(ただし、後場三節)売建玉一〇枚(ただし、平成三年一一月限月分)を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成三年五月九日 六月六日前場三節 五、〇二〇円

同年五月二一日 六月六日後場一節 二五、〇二〇円

同年六月六日後場三節 六月二〇日 三四八、〇八九円

三 綿糸について

原告が、平成二年九月一三日に売建玉一五枚、同月一四日に売建玉一五枚(ただし、平成三年一月限月分)を決済し、同月一八日に売建玉一〇枚(ただし、平成三年四月限月分)を建玉した取引の結果は次のとおりである。

(建玉日) (仕切日) (差引損益)

平成二年八月九日 九月一三日 三三三、五〇七円

平成二年八月九日 九月一四日 三八一、五一二円

同年九月一八日 九月二一日 一〇五、五七四円

以上の検討結果によれば、特に違法性が強いと原告が主張する「同日」の売と買については、全ての買建玉及び売建玉が利益を出して処分されており、原告が違法であると主張する他の「買い直し、売り直し」の個々の取引も不合理で手数料稼ぎを目的としたものであるとは認められない。

(7) 手数料割合について

原告は、先物取引における手数料については考えてなかったと供述するが、相場取引において手数料のかかることは、証券取引でも同様であり、また、明細書等にも明記されているので、右供述はにわかに信用できない。

前記のとおり、本件先物取引には、被告による不合理な手数料稼ぎの目的があるとは認められない以上、結果的に本件取引における手数料の損害に対する割合は約四〇パーセントに及んでいるとしても、このことのみをもって、手数料稼ぎのために違法な取引であると評価することはできない。

(八) 決済拒否について

平成四年六月一一日に建てた綿糸五〇枚について原告は決済を指示したがそれが拒否されたと主張するが、この具体的な時点が不明である上、このような事実を認めるに足りる証拠はない。

二 結論

以上によれば、原告による被告との間の商品先物取引について、被告に違法行為があったことを認めるに足りる証拠はないので、その余について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 林圭介)

〈以下省略〉

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